市販の再生セルロース試料3種類を,固体次亜塩素酸ナトリウムを主酸化剤としてTEMPO触媒酸化処理し,酸化生成物の構造解析を行った。不透明な再生セルロース/水懸濁液を60分間酸化処理すること透明な反応液が得られた。透明反応液から,エタノール添加による沈殿物として酸化生成物を単離-精製した場合,ほぼ100%の収率であった。酸化生成物の溶液NMR分析から,再生セルロース中のC6‒OH基がC6-カルボキシ基に全て酸化された水溶性β-(1→4)-ポリグルクロン酸であることが明らかになった。しかし,酸化生成物の固体NMRスペクトル中には,副反応で生成したC2/C3-ケトン基(全ユニットの20%未満)が生成しており,C2/C3-グリコール構造を持つ再生セルロースから調製された酸化生成物の特徴であった。これらのケトン基は,酸化生成物中で分子間ヘミアセタール結合を形成しているため,水には溶解しないので溶液NMRでは検出できず,固体NMRで検出されたと考えられる。また,酸化生成物中のカルボキシ基量を,電導度滴定によって正確に測定する場合には,試料重量を適正に調整する必要があった。酸化生成物の重量平均重合度は,元の再生セルロース試料が330~890であったのに対し,いずれも65~79に低下ており,触媒酸化中に顕著な重合度低下が避けられない。
(Chitbanyong et al., Carbohydrate Polymers, 2024)
天然ゴム(NR)とセルロースナノファイバー(CNF)の複合材料は,100%NRシートと比較して,乾燥引張特性が向上する。しかし,複合材料に親水性のCNFが共存すると耐水性が低下し,複合材料を標準的な耐水試験である,70℃で7日間熱水処理した場合,水を吸収して含有水分量が増加し,結果的に引張強度が低下してしまう。そこで,添加剤としてメタクリル酸亜鉛またはアクリル酸アルミニウムを用いることで,高強度・高耐水性NR/CNF複合材料を開発した。まず,乾燥機で乾燥したフレーク状NR/CNF/添加剤混合物を希アンモニア水で対イオン交換し,その後混錬処理-熱プレス処理して複合化ボードを調製した。複合化シートの蛍光X線分析の結果,添加したメタクリル酸亜鉛,アクリル酸アルミニウムによって複合材料の耐水性が向上する原因とメカニズムを解明した(信州大学との共同研究)。
(Noguchi et al., Polymer Degradation and Stability, 2024)
シリコーンオイル/水の安定エマルションの調製は,両液体の表面張力の差が大きいために困難である。そこで,シリコーンオイル/セルロースナノファイバー/アミノシリコーン混合系ピッカリングエマルションを高圧ホモジナイザー処理によってその場合成し,安定性,その理由,構造を解析した。プロトン化されたTEMPO-CNF-COOHのカルボキシル基と,アミノシリコーン分子のアミン基がホモジナイザー処理過程でイオン結合し,シリコーンオイル液滴表面で部分的に表面疎水化されたTEMPO-CNF複合体を形成する。その結果,エマルション系内のTEMPO-CNFの99%以上がアミノシリコーンとイオン結合しシリコーンオイル液滴表面に分布しており,均一微小サイズの平均径(0.3~0.6μm)有し,長時間安定したo/wピカリングエマルジョンが得られた。水中で解離したTEMPO-CNFのカルボキシル基により,液滴表面は強い負電荷(-50 mV)を有して分散していた。得られたシリコーンオイルピカリングエマルジョンをガラス板に塗布して乾燥させると,透明で耐水性と耐湿性があり,強力な撥水性を持つフィルムが得られた。したがって,本研究で調製したピカリングエマルジョンは,窓,ガラス製品,鏡を継続的に清潔な状態に保つためのコーティング材や塗装材として使用できる可能性がある(花王との共同研究)。
(Takeuchi et al., ACS Applied Polymer Materials, 2024)
使用済みコーヒー粕には,マンノース(29%),ガラクトース(11%),グルコース(11%)由来の多糖類が含まれており,有望なホロセルロースナノファイバー(HCNF)の原料となる。本研究では,超高圧ウェットジェットミルを使用して,マンナンを豊富に含むコーヒー粕ホロセルロースを1~15回解繊することでHCNFを調製した。5回解繊処理したHCNFは,幅2.4 nm,長さ0.7 μm,粘度平均重合度143度で,セルロースミクロフィブリル上にマンナンの結晶(5~10 nm)を含んでいた。温水抽出またはリグニン生成段階で,セルロースミクロフィブリルを基質としてマンナン成分が再結晶化した可能性がある。HCNFのセルロースの結晶度が低い(16%)のは,マンナンの結晶化度が高いためと考えられる。HCNFの幅は30~50nmで,セルロースミクロフィブリルの最小幅ではなかったが,一般的な機械解繊で調製したCNFに匹敵していた。コーヒー粕由来のHCNFは,食品業界での利用・応用が期待される(横浜国大との共同研究)。
(Kanai et al., Carbohydrate Polymer Technologies and Applications, 2024)
セルロースのTMEPO触媒酸化反応は位置選択的な反応と考えられている。そこで詳細な副反応を検討するため,過剰のNaOClを添加してTEMPO酸化パルプを調製した。水不溶の固体酸化パルプ成分の収率は40%以下となり,60%以上が水相成分となった。固体酸化パルプ成分を遠心分離および透析によって除去した水相成分を凍結乾燥してその化学構造および固体構造解析を行った。水相成分の収率は針葉樹パルプ由来で対パルプ乾燥重量の19%,広葉樹パルプ由来で30%となった。すなわち水相成分の大部分は透析によって除去される水溶性低分子分解物となる。回収された水相成分のカルボキシ基量は針葉樹パルプ由来で5.0 mmol/g,広葉樹パルプ由来で4.2 mmol/gとなり,水不溶の固体TEMPO酸化パルプ成分のカルボキシ基有量(2.6~2.7 mmol/g)よりもはるかに多い。固体NMRおよびその他の分析により,水相の主成分は水溶性のホモポリマーであるβ-(1→4)-ポリグルクロン酸でる。また,水相成分にはTEMPO酸化セルロースナノクリスタルも存在していたが,それらは回収された水相成分の10%以下であった。また,回収された水相成分の重量平均重合度160~170で,元のパルプの重合度が1990,2140なので著しく低分子化していた。これらの分子量低下と水溶性ポリグルクロン酸の形成は,セルロースのTEMPO触媒酸化による重要な副反応であり,TEMPO 酸化生成物の構造解析を進めるうえで考慮する必要がある。
(Hou et al., Carbohydrate Polymers, 2024)
下着の機能としては,水分や汗を吸収しやすいと同時に,速乾性という相矛盾する機能が求められる。そこで,綿布の水酸基を部分的に疎水性のアセチル基に置換することで,吸水性と速乾性機能を領有する綿布の調製について検討した。綿布の構造を維持した不均一なアセチル化反応として,Ac-I系(Ac2O/H2SO4/トルエン),Ac-II系(Ac2O/H2SO4/AcOH/水),およびAc-III系(Ac2O/AcONa)を検討した。結晶性セルロースミクロフィブリル表面へのアセチル化を目的として反応条件を制御し,置換度は0.5以下,収率は80%以上の部分アセチル化綿布を調製した。Ac-III系で調製した綿布は1500以上の高重合度を示しましたが,Ac-II系で調製した綿布は400以下の低重合度となった。20℃,相対湿度65%における部分アセチル化綿布の平衡含水率は,置換度が0.46まで増加すると元の7.1%から 4.7%に減少した。一部の部分アセチル化綿布は,ポリエステルニットと同様の速乾性を達成できた。導入されたアセチル基の分布を顕微FT-IRによって評価したところ,繊維断面方向に均一に分布している場合に速乾性が発現した。置換度が0.28以下のアセチル化綿布では,元のセルロースI型の結晶化度と結晶幅とほぼ同じであり,結晶性セルロースミクロフィブリル表面への一選択的なアセチル化が達成できた。部分アセチル化綿布の熱分解挙動は,アセチル化方法によって異なり,硫酸エステル基が微量存在する場合には熱分解開始温度が低下した。
(Onodera et al., Cellulose, 2024)
未乾燥のスギ(JC)ホロセルロース,JCカルス,およびバクテリア セルロース(BC)からTEMPO酸化サンプルを調製した。元の試料とそれらのTEMPO酸化生成物の中性糖組成分析を行い,続いて水中解繊処理して対応するTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TEMPO-CNF)を調製した。各TEMPO-CNF中のカルボキシ基を9-アントリルジアゾメタン(ADAM)で位置選択的にエステル化し,365 nmにUV吸収ピークを持つTEMPO-CNF-COOCH2-C14H9 に変換した。元の試料は1% LiCl/DMAcに溶解させ絶対分子量と分子量分布を測定し,JCホロセルロース,JCカルス,およびBCの重合度は5490,2660,および2380であった。一方,カルボキシ基をADAMでエステル化した試料については,SEC/MALLS/UV/RI測定によって分子量に対するカルボキシ基の分布を測定した。その結果,SEC溶出パターン(分子量分布)とカルボキシ基の分布は対応しており,TEMPO酸化処理によって導入されるカルボキシ基は,TEMPO-CNF中の高分子量部分から低分子量部分に至るまで広い範囲に導入されていた。ただし,カルボキシ基は低分子量部分にやや高濃度で分布していた。これらの結果から,未乾燥のセルロース試料中のセルロースミクロフィブリルについて,希酸加水分解でLODPを与えるような周期的な非晶領域の存在を考慮する必要がない,むしろそのような構造は存在しないことを示唆していた。
(Ono et al., Cellulose, 2024)
キトサンはカニやエビなどの甲殻類から得られ,主に医療材料として使用・研究されてきた。これまでは半導体および大容量記憶特性を備えた電子材料としての研究例は報告されていない。本研究では,N型負性抵抗を持つキトサンナノファイバー(ChNF)フィルムからなる694.4 mJ/m2のエネルギー貯蔵特性を持つn型半導体生体材料であることを見出した。ChNFは,3次の抵抗変化のスイッチング効果により,直流電圧源から187 MV/mのしきい値電圧で周波数7.8 MHzの交流波を生成した。これは,ChNFデバイスのカソードでの電圧誘起の強い電界ドメイン(電気二重層)の生成とアノードでのその消失の繰り返しによって引き起こされるガン効果による。電子スピン共鳴スペクトル分析により,ChNF の伝導電子がアミニルラジカルNH・H上のラジカルであることが示唆された。本研究の成果は,海洋バイオマスからペーパーエレクトロニクス材料に変換が可能であり,循環型能社会の構築に貢献できる。
(Fukuhara et al., AIP Advances, 2024)
市販のTEMPO酸化セルロース(TOC)と,様々な条件下で,実験室にて調製した3種類のTOC試料を同一条件下で水中解繊処理してTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TEMPO-CNF)の水分散液を調製した。そのCNF分散液に対し,様々な条件で最長2日間連続して主波長365 nmの紫外線を照射した。紫外線照射処理後のCNF分散液に対して,光透過率,粘度,pH,ゼータ電位,平均粒子径,および希酸可溶/不溶性成分の質量比率,分子量,カルボン酸含有量の変化を検討した。分散液のpH,希酸可溶画分の質量比率,カルボン酸含有量,重量平均重合度は紫外線照射時間の増加とともに減少した。これは,紫外線照射時間に対応して,CNFが解重合・分解し,TEMPO-CNFからのカルボン酸基が除去されて,希酸可溶分がTEMPO-CNFから形成されたことを示している。原子間力顕微鏡画像から平均CNF長は,紫外線照射時間の増加に対応して減少した。実験室で調製したTEMPO-CNF分散液に12時間紫外線照射すると,CNFの平均長は130~150 nmに短くなり,その長さの分布はより狭くなった。したがって,TEMPO-CNF水分散液の紫外線照射処理は,分散液の粘度,重合度,CNFの平均長さを効率的に低下させるために有効な方法である。
(Ning et al., Cellulose, 2024)
TEMPO触媒酸化を,酵素合成された水不溶性のα-(1→3)-グルカンに適用し,新規水溶性ポリグルクロン酸の調製を検討した。主酸化剤としては固体NaOCl・5H2Oを使用した。グルカンに対して15 mmol/gのNaOClで酸化すると,回収率97%で水溶性の酸化物が得られ,カルボキシ基量5.3 mmol/gであり,これはC6-OH基の93%がカルボキシ基に酸化されたことを示している。したがって,化学構造がほぼ均一な新規な水溶性α-(1→3)-ポリグルクロン酸が定量的に得られた。X線回折と固体13C-NMR分析により,元のα-(1→3)-グルカンとカルボキシ基量5.3 mmol/gのTEMPO酸化物は結晶構造を有しているのに対し,C6-OH基の酸化度が50%と66%の試料は非晶性であった。酸化生成物のカルボキシ基をトリメチルシリルジアゾメタンで位置選択的にメチルエステル化し,SEC/MALLS/RI分析したところ,元のα-(1→3)-グルカンとC6-OH基の酸化度が50%,66%,93%の酸化生成物の重量平均重合度は,671,288,54,45であった。したがって,TEMPO触媒酸化反応中にα-(1→3)-グルカン分子の相当な解重合が起こる。
(Chitbanyong et al., Carbohydrate Polymers, 2024)
主酸化剤として固体NaOCl・5H2Oを用いて,市販の乾燥広葉樹および針葉樹漂白クラフトパルプシートを出発とし,TEMPO触媒酸化反応によりカルボキシ基含有セルロース繊維を調製するための包括的に研究を行った。pH 10の条件でパルプ懸濁液に添加した固体NaOClの量がパルプ1 g当たり5 mmolの場合,両パルプともに初期反応速度が高く,酸化終了にかかる時間が短く,カルボキシ基含量および粘度平均重合度が高い。固体NaOClの添加量が15 mmo/g-パルプでは,水不溶性酸化セルロース繊維の重量回収率は,両パルプともに40%以下となり,平均重合度は300以下に低下した。すなわち,TEMPO酸化反応過程での副反応は無視できない。固体NMRとX線回折により,元のパルプ中のセルロースI型の結晶化度と結晶サイズは維持されていた。本実験で得られたカルボキシル基を豊富に含むセルロース繊維は,各種カチオン性化合物の吸着の足場として利用でき,従来の抄紙プロセスを用いて新たな官能基含有機能シート材料として利用することが可能である。
(Hou et al., ACS Sustainable Chemistry & Engineering, 2023)
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を介した天然セルロースのC6-OH基のカルボン酸への酸化によって調製されたセルロースナノファイバー(CNF)は,アルミニウム粉末と純水の反応を促進するための疑似触媒として作用します。Al粉末と純水の反応は段階的な反応で,最外層の元々のAl2O3 薄表層の水和から始まり,次に内部の金属Alと水の反応が進みます。50 ℃以下の低温では,OH–イオンと Al3+イオンがAl2O3 薄表層で生成し,そこにAl粉末を0.1~0.5%のTEMPO-CNFを含む水と混合することで,TEMPO-CNFのネットワーク構造がAl2O3薄表層上に自己配位します。 Al3+イオンは,不溶性のAl3+/TEMPO-CNF複合ナノ構造の形成を介して捕捉され,共役OH-イオンが静電反発によってAl2O3基材の薄表層の近くに分布します。pHが11以上の強アルカリ性条件となり,Al2O3薄表層がOH-イオンとの反応によって急速に溶解します。OH–イオンは触媒としても機能し,金属Alと水の反応を促進します。Al粉末は速やかに反応し,50℃以下の温度でほぼ100%のAl/H2 変換が可能となります。
(Fugetsu et al., Advanced Energy & Sustainability Research, 2023)
TEMPO酸化セルロースナノフィブリル(TEMPO-CNF)とメタクリル酸ナトリウム(mAANa)からなる天然ゴム(NR)複合シートを作製した。まず,NRラテックス,TEMPO-CNFおよび mAANa の水系混合物をオーブンで乾燥しました。続いて,乾燥した混合物を混練し,架橋複合化ゴムシートを調製しました。得られたNR/TEMPO-CNF/mAANa(重要比100/20/11.2)シートは約23MPa の高引張強度を示し,対照の100%NR シートの引張強度は約5 MPaでした。走査型電子顕微鏡観察により,mAANaを含まないシートよりもmAANaを含む複合化シートではTEMPO-CNFの凝集体が少なく,TEMPO-CNFのゴム基材中での分散性向上にmAANaが寄与していました。熱機械試験の結果,NR/TEMPO-CNF/mAANaシートは,‒100℃~200℃の全範囲にわたって,対照のNR シートよりも高い貯蔵弾性率を示しました。NR/TEMPO-CNF/mAANa 複合化シートは,NR/カーボンブラック複合シートと同等またはそれ以上のヒステリシス損失および永久変形挙動を示しました。したがって,NR/TEMPO-CNF/mAANa複合化シートは,オールカーボンニュートラル成分からなる高性能複合ゴムシートととして使用できます。
(Noguchi et al., Composites Part A, 2023)
濃リン酸中でのセルロースの均一加水分解により,重合度7と15の2種類の特徴的な単分散セロオリゴマーが得られることが知られています。単分散セロオリゴマーの形成メカニズムを理解するには,リン酸中での重合度の変化を追うことが重要です。そこで,経時的な加水分解物を,多角度光散乱分析(SEC/MALLS)に組み合わせたサイズ排除クロマトグラフィーによって検討しました。得られた結果から,特定の長さでの加水分解ではなく,ランダムな加水分解である可能性が高いことを示唆しました。加水分解の速度は,重合度が約40に達すると遅くなり,35日間の加水分解処理でセロオリゴマーの蓄積が確認できました。次に,セロオリゴマーの蓄積物から溶解度の差に基づく分別により単分散セロオリゴマーを回収する機構が明らかになりました。
(Isobe et al., Cellulose, 2023)
3種の市販再生セルロース試料として,ビスコースレーヨン,テンセル,ベンリーゼ (銅アンモニウム再生不織布)の分子量と分子量分布を,塩化リチウム/ジメチルアセトアミド(LiCl/DMAc)に溶解させ,多角度光散乱検出器付きのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC/MALLS)により測定しました。LiCl/DMAcへの溶解前に,各試料を以下の3方法で前処理しました。(1) エチレンジアミン(EDA)に浸漬し,その後メタノールを介してDMAcに溶媒交換。(2) 水に浸漬し,その後エタノールを介してDMAcに溶媒交換。(3) 水に浸漬し,その後エタノールを介してtert-ブチルアルコールに溶媒交換して凍結乾燥。前処理した試料を8% LiCl/DMAcに分散させ,1~3週間撹拌することで溶解させ,その後 SEC/MALLS 分析のために 1% LiCl/DMAcに希釈しました。EDAおよび水で前処理した試料は,ほぼ同じSEC 溶出パターンと分子量プロットが得られ,同様の数平均分子量と重量平均分子量が得られました。一方,凍結乾燥試料では,EDAまたは水で前処理した試料回収率が10%~20%低くなりました。これは,おそらく凍結乾燥試料がLiCl/DMAcに完全に溶解しなかったためと考えられます。ビスコースレーヨン,テンセル,ベンリーゼの重量平均重合度はそれぞれ340,530,880でした。コンフォメーションプロットの傾きは0.58~0.62で,3種類の再生セルロース試料のすべての分子が1% LiCl/DMAc に分子レベルで溶解し,直線状のランダムコイル構造を形成していることが示されました。
(Ono et al., Cellulose, 2023)
未乾燥針葉樹漂白クラフトパルプから手すきシートを作製し,風乾および加熱乾燥後,リサイクル後の角質化挙動に関して,水蒸気吸着等温線から解析しました。相対湿度で50%を超える領域で,未乾燥パルプ,風乾シート,加熱乾燥シート間で吸着水分量に明瞭な差異を検出できました。これらの差異は,湿紙の風乾,加熱乾燥およびリサイクル過程でのパルプ繊維の角化挙動を反映しています。湿紙の風乾および加熱乾燥処理により,元の未乾燥パルプの吸着水蒸気量よりも7%~9%および14%~18%減少しました。これらの吸着水蒸気量の低下は,パルプ中の親水性ヘミセルロースおよび結晶セルロースミクロフィブリル表面における水酸基の不可逆的形成の程度を反映していると推定できます。得られた結果から,パルプのリサイクルによる角質化=不可逆的な水素結合形成挙動の新しい解析手法として利用できると考えます。
(kimura et al., Nordic Pulp & Paper Research Journal, 2023)
C6-OH基の無いキシランを主要ヘミセルロース成分とする広葉樹材では,高分子量セルロース分子にはセルロースとヘミセルロース間の化学結合量はほとんどありません。そこで,脱リグニン処理0~3回のカバ材をエチレンジアミン処理し,8%LiCl/DMAcで抽出可能な成分を定量し,SEC/MALLS分析と中性構成糖分析で抽出可能な成分を分析しました。脱リグニン処理の有無にかかわらず,エチレンジアミン処理による構成糖成分の変化はなく=エチレンジアミン処理は構成糖分析結果に影響しません。そこで,エチレンジアミン処理しただけの脱リグニン処理していないカバ木粉を8%LiCl/DMAcで処理したところ,重量全体で28%,セルロース重量の約11%が抽出されました。SEC/MALLS分析したところ,高分子量のセルロースを含有しており,脱リグニン処理しなくても高分子量セルロース成分が抽出で切ることがわかりました。脱リグニン処理1回でも抽出量は木粉重量に対して68~74%に増加し,ほとんどすべてのセルロース成分が,1回の脱リグニンとエチレンジアミン処理で抽出-分析することができました。抽出された高分子量セルロース分子はSEC/MALLS分析用溶液中で直線状のランダムコイル構造を有していました。SEC/UVパターンから,高分子量のセルロース分子にはリグニンあるいはリグニン分解物と化学結合が存在していることを示していました。すなわち,リグニン分子が結合していても高分子量セルロースを抽出することができます。
(Ono et al., Journal of Wood Chemistry and Technology, 2023)
超消臭機能を備えた圧着着脱可能シートとして,TEMPO-CNFを含有する発泡ゴム層とベースフィルムまたは不織布シートからなる二層シートを開発しました。TEMPO-CNFのカルボキシ基の対イオンに銅イオンを導入することで優れた脱臭機能が発現し,生活悪臭である硫化水素,メチルメルカプタン,アンモニアガスを効率的に吸着-除去することができました。電子顕微鏡画像から,TEMPO-CNF-Cuは発泡体の空気界面に局在していることが判明し,その結果超消臭機能が発現しました。この超消臭機能付き圧着脱着シートは,平らなガラス板およびプラスチック/セラミックボードへのフォームシートに手で貼り付けることができ,剥がすのも簡単で跡が残りません。屋内外の広告など広い分野での利用が期待されます。
(Sone and Isogai, Industrial and Engineering Chemistry Research, 2023)
飲料水,工業用水,工業廃水中のフッ素イオンの効率的除去を目的として,TEMPO-CNFとオキシ水酸化鉄(FeOOH)の複合材料のフッ素イオンの吸着等温挙動,吸着速度,および熱力学挙動を検討しました。また,対象としてFeOOH/CMC,FeOOH/繊維状TEMPO酸化セルロース(TOC)なども検討しました。その結果,FeOOH/TEMPO-CNF複合体が最も高いフッ素イオンの等温平衡吸着量を示しました。この原因として,この複合体の高い比表面積が関与しています。また,Langmuir型の吸着を示しており,フッ素イオンは単相で吸着していることが示されました。フッ素イオンの吸着の自由エネルギー変化は負の値であり,フッ素イオンの吸着は水中で自発的に進行することを示しており,優れたフッ素イオン吸着剤であることが判明しました。
(Umehara et al., Environmental Science and Pollution Research, 2023)
リン酸エステル化パルプを水中で解繊処理し,光学的に優れた特性を有するフィルム・シートの作製を検討しました。解繊条件を制御することにより,光学透明性は高いにもかかわらず,高いヘイズ度を有するという矛盾した光学特性が発現します。また,水中解繊度を制御することで優れた機械的特性や耐炎性も発現しました。光電子デバイス用のプラスチックに代わる本新規フィルムは,生分解性がありながら有望なエレクトロニクス用材料としてして注目されています。特に発光ダイオードの光特性制御・管理に利用できます。
(Hou et al., Carbohydrate Polymers, 2022)
市販のセルロース試料は,単離-生成過程で様々な乾燥あるいは熱水処理を受けます。これらのプロセスは元の植物が生合成した段階のセルロースの構造を変化させ,物性が変わる可能性があります。本研究では,ラミー靭皮と綿繊維を未乾燥のまま脱リグニン処理と脱ヘミセルロース処理し,中性糖分析,XRD分析,固体13C-NMR分析を行いました。また,TEMPO触媒酸化反応を用いて植物セルロース繊維をナノレベル幅に完全に分散させ,原子間力顕微鏡あるいは透過型電子顕微鏡にてセルロースミクロフィブリル形状を観察しました。ラミーおよび綿セルロース試料の精製後のブドウ糖慚愧含有量はそれぞれ93%および98%で,特に綿セルロースは極めて高純度のセルロース試料となりました。XRDパターンから計算されたラミーおよび綿の結晶幅は,3.5〜3.8 nmおよび4.6〜5.1 nmで,未乾燥状態を維持して試料調製しましたが,綿セルロースの方が結晶幅は大きく,この要因としてセルロース純度が関与しているようです。いずれのセルロース試料も市販乾燥試料よりも結晶幅が小さいことから,単離-精製プロセスおよび乾燥過程で結晶幅の増加に至ったと考えられます。
(Ono et al., Cellulose, 2022)
セルロースナノクリスタル(CNC)は,長さの短いナノセルロース材料として知られており,従来法では製紙用パルプあるいは綿リンターを約64%の硫酸で加熱処理したのち水中解繊処理して調製されていました。そこで,従来型の硫酸エステル基を含有するCNCのほかに,水中で解離してCNC表面にマイナス荷電を有してナノ分散化する複数のCNCを準備し,それらの化学構造,荷電基の種類と量が熱分解安定性に与える影響を検討しました。カルボキシ基を有するCNCについては対イオンをナトリウム塩かプロトン型かについても調べました。その結果,ナトリウム塩型よりもプロトン型の方が熱的に安定していました。
(Vanderfleet et al., Chemistry of Materials, 2022)
フッ素イオンは有毒であり,飲用水あるいは工業排水中のフッ素イオン量は一定限度濃度以下に処理あるいは削減する必要があります。そこで,フッ素いイオンの吸着剤としては知られていましたが吸着効率の低いオキシ水酸化鉄(FeOOH)とTEMPO-CNFを複合化することで,水中のフッ素イオンの効率的な吸着材の開発を目指しました。その結果,重量比で87/13のFeOOH/TEMPO-CNFを調製し,そのフッ素イオン吸着挙動を等温平衡吸着量から検討したところ,市販のFeOOH粉末,合成FeOOH粉末よりも高い平衡吸着量を示し,優れた吸着剤としての機能が発現しました。その要因としては,粒子形状が大きいにもかかわらず比表面積が大きく,フッ素イオンの吸着サイトが増加したためと考えられます。また,吸着のメカニズムとしてはFeOOHの電子密度が低いFe部分に負荷電のフッ素イオンがイオン的に吸着する場合と,残留塩素イオンとのイオン交換で吸着する場合が考えられました。得られた結果から,FeOOH/TEMPO-CNF複合体は,飲料水や工業廃水中のフッ素イオン除去用吸着剤として利用可能と考えられます。
(Umehara et al., Cellulose, 2022)
オーブン乾燥したナノセルロースを調製し,高せん断力下でゴムシートと混合してゴム/ナノセルロース複合体シートを調製すると,対照のゴムシートと比較して引張強度特性が改善されます。そこで,得られたゴム/ナノセルロース複合化シートから超薄切片を調製し,リアルタイムの引張変形-破断過程を,透過型電子顕微鏡により観察し,ボイドの形成とそれによる亀裂の伝播の時間依存性を明らかにしました。ボイドはまずゴム/ナノセルロース クラスター内に形成され,伝播して亀裂を形成し,他のボイドまたは二次亀裂に融合しました。
(Jinnai et al., Polymer Composites, 2022)
漂白した針葉樹クラフトパルプを150℃で0~40分間リン酸エステル化し,得られたリン酸エステル化パルプの構造と特性を,反応時間と薬品の添加量に関して体系的に検討しました。リン酸エステル化パルプ中にはカルボキシ基,カルバメート基は副生せず,リン酸エステル基のみが導入され,そのリン酸エステル基のアンモニウム塩は弱酸として挙動しました。一方,反応時間が長くなり,あるいは添加するリン酸水素アンモニウム量が増加すると生成物の水膨潤度が低くなり,リン酸エステル基による繊維内および/または繊維間架橋が生成しました。本研究で得られた結果から,リン酸エステル化パルプ繊維は,含まれる大量の弱酸基が多様なイオン交換部位の足場となり,新しい機能性セルロース シートおよび材料の調製に適していることを示しています。
(Hou et al, Cellulose, 2022)
TEMPO酸化セルロースナノファイバー(TEMPO-CNF)の水分散液の乾燥物を調製し,ポリプロピレン(PP)に添加-混錬してTEMPO-CNF/PP複合化シートを調製し,その力学および熱特性を検討しました。複合化シートの降伏応力と貯蔵弾性率は,TEMPO-CNF含有量の増加とともにほぼ直線的に増加しました。しかし,破断伸びは,複合化過程でTEMPO-CNFの凝集体形成されるため,TEMPO-CNF含有量とともに明らかに減少し,脆化しました。TEMPO-CNFを複合化したPPシートは,印刷適性や接着剤によるシートどうしの接着性が向上します。したがって,乾燥したTEMPO-CNFは,再生PPおよび低品質PPの機械的,熱的,および印刷特性を改善し,再生PPのリサイクル率向上のための添加剤として使用できます。
(Noguchi et al., Cellulose, 2022)
TEMPO酸化バクテリアセルロース(TO-BC)の固体13C-NMR分析から,結晶化度はTEMPO酸化前後で変化なく,TEMPOを介した触媒酸化反応が結晶性バクテリアセルロースフィブリル表面で選択的に起こることを示しています。ただし,解繊してナノファイバーとして分散化したTO-BCナノファイバーの結晶化度は低く,水中での解繊処理が結晶化度の部分的な低下を引き起こしたことを示しています。TO-BCナノファイバーには,単一フィブリルとフィブリルの束の両方が含まれており,均一な幅を持つ完全分散化したナノファイバーは得られませんでした。最小のフィブリル幅は約3 nm で,陸上植物セルロースから調製したTEMPO酸化セルロースナノファイバーと同様の幅サイズでした。
(Ono et al., Cellulose, 2022)
亜塩素酸で段階的に脱リグニン処理したカバおよびベイマツのホロセルロース試料について,中性構成糖組成,分子量分布,固体13C-NMR分析を行いました。繰り返し脱リグニン処理でも,ヘミセルロースに結合したアセチルエステル基の含有量は,常に一定でした。ベイマツ試料の高分子量画分のセルロース分子にはグルコマンナンによる分岐構造が存在するため,カバの分子量よりもはるかに大きく,脱リグニン回数が増加してもほとんど変化しませんでした。亜塩素酸による脱リグニン処理残渣とその酸不溶性画分の固体13C-NMR分析から,残存リグニン分子にカルボキシ基が形成されました。
(Ono et al., Cellulose, 2022)
TEMPO酸化処理したセルロース繊維中のカルボキシ基に銀を対イオンとして導入し,還元して銀ナノ粒子担持セルロースシートを調製しました。還元処理により,TEMPO酸化セルロース中のC2/C3水酸基がケトンに酸化されたことを確認しました。走査型電子顕微鏡により観察すると,銀ナノ粒子が繊維表面にほぼ均一に分布しており,平均直径は32〜40 nmでした。得られた銀ナノ粒子担持シートは,グラム陰性の大腸菌株およびグラム陽性の黄色ブドウ球菌株に対して十分な抗菌活性を示しました。したがって,銀ナノ粒子担持TEMPO酸化パルプシートは,従来の製紙プロセスを用いて製造可能な抗菌紙および関連包装材料として使用できる可能性があります。
(Puangshin et al., Cellulose, 2022)
ヘミセルロースを多く含むホロセルロースは,エチレンジアミン前処理により全量を8% LiCl/DMAcに溶解させることができます。この溶液を,多角度光散乱検出器付きのサイズ排除クロマトグラフィーで分析すると,高分子量セルロース分子の分岐構造の有無を検出することができます。その結果,リグニンのない海藻のセルロース,および広葉樹と草本類のセルロースは,バクテリアセルロース,ホヤセルロースと同様,直鎖状の分子です。しかし,コケ,シダ,裸子植物のセルロースはリグニンあるいはリグニン様物質を介してグルコマンナンの分岐構造が存在することを見出しました。植物進化の過程で,裸子植物の高樹高,高強度,高寿命に関与している可能性があります。
(Ono et al., ACS Symposium Series, 2017)
二次元高分解能二次イオン質量分析装置(NanoSIMS)を用い,セルロース,ヘミセルロース,リグニンなどの複合体である樹木木部の形成過程について検討しました。炭素の安定同位体である13Cラベル化した二酸化炭素を樹木に短期間投与した実験では,これまでにない高い分解能で細胞壁への13C取り込みの様子が観察できることが示されました。
(Takeuchi et al., in preparation)
セルロースナノファイバーは高強度・高弾性率を有するバイオ系ナノ素材で,高分子と複合化することで軽量高強度材料への利用が期待されています。しかし,通常の複合化処理では親水性のセルロースナノファイバーが高分子基材中で凝集し,効果的な複合効果を示す強度を発現できません。しかし,高せん断処理でエラストマーとセルロースナノファイバーを複合化前処理することで,高強度・高弾性率・高靭性の同時発現を可能にしました。ポイントはセルロースナノファイバーを高分子基材中でナノ分散化させることです。
(Noguchi et al., Composite Science and Technology, 2020)
TEMPO酸化セルロースを水中で長時間超音波処理することで,アスペクト(長さ/幅)比が50以下の針状の新規セルロースナノクリスタルが得られます。固形分濃度を変えた分散液の動的光散乱挙動から,ナノ分散状態からゲル化する過程を解析することができました。TEMPO酸化セルロースナノファイバーの平均長さを1/2にすることで,ゲル化固形分濃度を4倍に増加することができます。
(Zhou et al., Biomacromolecules, 2019)
オキシ水酸化鉄(FeOOH)は,トンネル構造を有しており,トンネル構造内でフッ化物イオンを選択的に取り込むことができます。途上国では,飲料水中のフッ素イオンが重篤な病の原因になっています。そこで,TEMPO酸化セルロースナノファイバーを足場とし,FeOOHを複合化することにより,水中のフッ素イオンを選択的に吸着し,工業廃水用や飲料水の効果的なフッ素イオン除去剤としての利用を検討しています。
(Umehara et al., in preparation)
セルロース試料の重量平均および数平均分子量を,多角度光散乱検出器付きのサイズ排除クロマトグラフィーを用いて測定する際には,セルロースの正確な「固有の屈折率増分(dn/dc値)」を求める必要があります。これまで様々な値が提案され,統一されてきませんでした。その原因を解明し,1% LiCl/DMAc溶液中でのセルロースのdn/dc値が0.131 mL/gであること,およびその原因がセルロース水酸基に対するLiClとDMAc分子の動的な錯体形成によることを明らかにしました。また,キチン,プルランなどの高分子多糖でも同様の1% LiCl/DMAc溶液中での溶解機構を明らかにし,正確なdn/dc値を示しました。
(Ono et al., International Journal of Biological Macromolecules, 2018; Biomacromolecules, 2018)
セルロースのTEMPO触媒酸化反応で調製される「セルロース/酸化セルロース分子中」の分子量分布に対するカルボキシ基の分布状態を,カルボキシ基の位置選択的メチル化反応およびアントラセンメチル化反応と,多角度光散乱および紫外線吸収検出器を付属させたサイズ排除クロマトグラフィーで明らかにしました。セルロースミクロフィブリル断面の大きな海藻のセルロースでは,その表面にカルボキシ基が分布して内部は酸化されていません。一方,ミクロフィブリル断面が小さな植物セルロースでは,カルボキシ基は低分子から高分子領域に一様に分布していました。これらの結果は,植物セルロースミクロフィブリル中のセルロース分子の配列構造が海藻とは異なることを示しています。
(Ono et al., Biomacromolecules, 2019)
木材セルロースのTEMPO触媒酸化反応と水中超音波処理により得られたセルロースナノファイバー,セルロースナノクリスタルの固体NMR分析から,木材細胞壁セルロースミクロフィブリル1本は36本のセルロース分子が集合した6角形断面であること,ミクロフィブリルの長さ方向に分布する非晶領域が酸化処理で分子鎖切断・非晶領域の生成などの損傷を受けることを見出しました。TEMPO触媒酸化反応は位置選択性の高い安定ニトリキシルラジカルを触媒とする有機化学反応ですが,固体セルロースに対する反応ではさまざまな副反応が認められました。
(Zhou et al., Biomacromolecules, 2020)
固体リチウムイオン電池は,高いエネルギー密度と安全性の点で期待されていますが,既存の固体イオン伝導体は,実用化に対して厳しい電池条件を満たすことが困難でした。本論文では,TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)の特異的なナノ構造を活かして,高性能固体高分子イオン伝導体の調製に成功しました。TEMPO酸化CNF内のセルロース水酸基に銅イオンを配位させることで,通常はイオン絶縁性のCNF内にリチウムイオンの高速輸送を可能にし,その結果,室温で高い伝導率に加え,高い輸率を達成しました。これらの結果から,安全で高性能な全固体電池の基本設計コンセプトを提案でき,同時にその機能発現機構を解明しました。
(Yang et al., Nature, 2021)
多糖類の水系媒体でのTEMPO触媒酸化反応により,カルボキシ基のナトリウム塩を含む様々な水溶性新規ポリウロン酸の調製が可能になりました。これまでの有機溶剤を用いる化学反応に対して,反応の位置選択性,得られる新規ポリウロン酸の構造や機能,反応プロセスの環境適合性など,様々な優位性が特徴で,多糖類化学の新しい領域を拓くことができました。また,結晶性ミクロフィブリルを構成単位とする天然セルロース,キチンからは,特異的なナノ構造と機能を有する新規バイオ系ナノファイバーの調製が可能になりました。
(Isogai, Polymer Journal, 2021)
TEMPO酸化セルロース/水分散液を用いた高分子複合化に対する課題は,分散液には多量の水が含まれており,輸送や取り扱いが困難であること,また,高分子との複合化の際にその多量の水を加熱処理などによって除去しなければならない点です。そこで,TEMPO酸化セルロースナノファイバー/水分散液にレゾルシノール樹脂を添加し,オーブン乾燥することで,多孔性で,保存性,取り扱い性,輸送性に優れた乾燥材料に変換しました。その乾燥物をゴムシートと複合化することで,高強度,高弾性率,高靭性,耐熱性のあるセルロースナノファイバー/ゴム複合化物を得ることができました。研究成果はカバーイラストに採択されました。
(Noguchi et al., Composite Science and Technology, 2021; Macromolecular Chemistry & Engineering, 2021)
TEMPO酸化セルロース,TEMPO酸化セルロースナノファイバーの分子量低下,長さの低下反応を,TEMPOを用いない,NaClO/NaBr酸化によって検討しました。その結果,TEMPO酸化反応におけるセルロースの低分子化,ナノファイバーの損傷は,セルロースミクロフィブリルの長さ方向に周期的の存在している非晶領域からの,NaClO/NaBrによる酸化分解による低分子化が主要因であることが判明しました。一方、TEMPOは低分子化には関与していませんでした。
(Ono et al., Cellulose, 2021)
TEMPO酸化セルロースナノファイバーと高分子の複合化による軽量高強度材料の調製は,セルロースナノファイバーに期待される応用分野です。しかし,セルロースナノファイバーが水分散液として調製され,極めて親水性が高いのに対して,高分子は疎水性の場合が多く,複合化しても高物性が得られない場合があります。そこで,TEMPO酸化セルロースナノファイバーの水分散液に,水溶性のセルロース誘導体の水溶液を混合-キャスト-乾燥させることで,均一なナノファイバーの複合化が達成できると予想されました。得られた複合化フィルムは透明でした。しかし,ヒドロキシプロピルセルロースとの複合化では,高強度,高弾性,低靭性となりましたが,他のセルロース誘導体と複合化しても全く物性の変化がありませんでした。その原因をTEMPO酸化セルロースナノファイバーの分布状態から検討した結果,キャスト—乾燥プロセスで水が蒸発し,濃縮する段階で不均一な分布となることで,物性の変化が認められないことが判明しました。溶媒を用いたキャスト-乾燥による複合化プロセスには注意が必要であることが判明しました。また,高分子との複合化によって高物性が得られない場合には,今回の結果のようにセルロースナノファイバーが均一分散化せず,局在化している可能性を示しています。
(Okahashi et al., Cellulose, 2021)
TEMPO触媒酸化,リン酸エステル化等様々な化学前処理が,セルロースナノファイバー調製で提案されています。これらの前処理により結晶性セルロースミクロフィブリル表面にマイナスの荷電基を位置選択的に,高密度で導入することにより,水中での微細化・解繊効率が向上し,高等植物セルロースから,最小幅の約3 nmのセルロースナノファイバーが得られます。また,これらのセルロースナノファイバー表面のアニオン基を足場として,様々な機能を付与できるのが特徴で,その結果,本来のセルロースにはない,疎水性,触媒機能,消臭機能,耐水性,耐湿性等の特性を効率的に付与することができます。さらに、化学前処理したセルロースの水中解繊条件を制御することにより、セルロースナノネットワーク、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタルと形状の異なるナノセルロース類をすべて調製することができます。
(Isogai, Advanced Materials, 2021)
セルロースをエネルギー関連利用に関する最近の研究を含め,多くの新しいセルロース材料とその独自の用途が開発されてきました。高い結晶性と豊富な極性水酸基は,セルロースに多数の双極子と強力な電子供与能力を与え,圧電効果と摩擦電気効果発現の要因となります。本論文では,環境発電等の用途向けのセルロース系圧電ナノ発電機,摩擦電気ナノ発電機,ハイブリッド圧電/トリボ電気ナノ発電機の設計,改質,処理,複合化に関する最新の開発について詳しくまとめます。
(Song, et al., Journal of Materials Chemistry A, 2021)
セルロースは地球上で最も豊富な生体高分子であり,樹木,農作物の廃棄物等のバイオマス資源の主成分です。セルロースを構成する階層構造を有する繊維は,ナノスケールに及ぶさまざまな制御可能なサイズのフィブリル化セルロースである「ナノセルロース類」に微細化することができます。微細繊維化セルロースは再生可能資源から得られるため,その持続可能性と他の機能特性(機械的,光学的,熱的,流体的など)を組み合わせることで,このナノ材料に独自の機能を付与します。本論文では,複合材料や繊維から,薄膜,多孔質膜,ゲルに至るまでの材料の製造におけるフィブリル化セルロース類の利用について説明しています。これらの構造を実際に活用するための研究の方向性と,フィブリル化セルロース材料がその潜在能力を最大限に発揮するために克服すべき課題についても説明します。
(Li, et al., Nature, 2020)
これまで,多量のヘミセルロースやリグニンを含むバイオマス試料,高結晶性のセルロース試料に対しては,絶対分子量測定測定が可能な適正な溶剤がありませんでした。本論文では,エチレンジアミン処理することで,ほぼすべてのヘミセルロース,リグニンを含むバイオマス試料,および高結晶性のセルロース試料に対して損傷を与えることなく溶解でき,多角度光散乱検出器付きのサイズ排除クロマトグラフィー分析が可能となりました。その結果,様々なセルロース系試料の絶対分子量,分子量分布,針葉樹セルロースの分岐構造,残存リグニン,残存ヘミセルロースの分布状態を明らかにすることができました。高分子材料の分子量・分子量分布は基本特性なので,今後セルロース系材料,ナノセルロース類が利用される上で重要な分析・解析方法の構築と言えます。
(Ono and Isogai, Carbohydrate Polymers, 2020)
二次元高分解能二次イオン質量分析装置(NanoSIMS)
(文部科学省ナノテクノロジー
プラットフォームプロジェクト)
固体CP-MAS 13C-NMR装置
(科学技術研究機構CRESTプロジェクト)
酸素透過度・水蒸気透過度測定装置
(NEDOナノテク先端部材プロジェクト)
多角度光散乱検出器付き
サイズ排除クロマトグラフ
(学振科研費・基盤研究Sプロジェクト)
構成糖分析用液体クロマトグラフ
(科学技術研究機構CRESTプロジェクト)
電子スピン共鳴分析装置
位相差顕微鏡システム
pHスタット,電導度測定装置
超音波解繊装置
(NEDO講座プロジェクト)
レーザー動的光散乱粒径分布/
ゼータ電位分析装置
(NEDOプロジェクト)
高圧ホモジナイザー
(NEDOプロジェクト)